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『フランス窓便り』 葉っぱのあらわす心象風景
 田渕由美子 1976年 集英社

大学に通う3人の少女が、
ロマンチックな洋館を借りて共同生活をはじめる。
子供っぽく、守ってあげたいタイプの杏、
咥えタバコで、はすっぱな割に純情な苗子、
物静かで思慮深く、大人びた印象の詮子。
異なる性格の少女達の、異なる3つのラブストーリーに
きっと読者は共感できる少女を見つけるはずだ。

3人の少女達は、自分に相応しい彼氏を見つけて
ハッピーエンドで終わるのだが、その間
それぞれひとつのハードルを超えて恋が成就する。

杏は文通を重ねたボーイフレンドと再会を果たす。
実際会ってみれば、お洒落で「遊び人」風の彼に違和感を感じながら
毎朝出会う、素朴な予備校通いの牛乳配達人に心がひかれてゆく。
牛乳屋さんが「杏」をルームメイトの「苗子」と間違えたことが
きっかけで、杏は苗子と偽ったまま、早朝の玄関先で交流を深める。
「もう牛乳屋さんはおしまいだよ」と本名を名乗る彼。
決定的に牛乳屋さんに恋をしてしまった彼女は
幼い精神故の自分の失敗に気づき、
「自分勝手な杏」とひどく自己嫌悪に陥り、
正直に苗子は杏であるという真実を告白する決心をかためる。

見た目が一番純情そうで、子供っぽい彼女の、
結果的には「二股」になってしまった関係が妙にリアルだ。
苗子は同じ美大のピーター・フォンダ似のハンサムな友人に
密かな恋心をよせているが
まったく正反対の長髪髭面の粗忽な友人に告白される。
「タバコをやめろ」だの、的外れなパチンコ指南など口煩い彼。
髭面の彼に対して無視を決め込む苗子がある日、
片思いの彼に、告白の暗喩であろう花束を片手に会いに行く。
しかし実は「ピーター・フォンダ似の友人」は妻帯者であった。
事実を知り、誰にも悟られずひとり落ち込む苗子を
一番気づかったのが、髭面の彼であった。
いきなり家に押しかけ、長時間居座り、何も言わずフケだけ落として
帰っていった彼。何だアイツは?と思いながらも彼の真心が身にしみる。
ある朝、苗子は髭面に向かって叫ぶ。
「あんねー あたしタバコやめることにしたんだわ」
このときの苗子のファッションが
フェミニンなスカートだったのが見のがせない。

詮子は大学の軽薄で希薄な人間関係についていけない。
そんな中で「柘植みちこさん」とはじめて初見で名前を
「みちこ」と呼んだ彼を詮子は意識しはじめる。
他の学生とは異質な、どこかいつも遠くをみつめている
寡黙な彼の左手には金色のリングが光る。
指輪の存在を知りながらも詮子は「気にしない」そぶりを決め
二人の距離が除々に近付いてゆく。
「左手の婚約指輪は死んだ詮子姉さんのことが忘れられないから
あなたは詮子姉さんの身替わりなのよ」(要約)
亡くなった姉の影でずっと彼に片思いをしていた少女が、
指輪の秘密を詮子に告げる。
巨大なキャンパスで、自分の存在を「みちこ」という名前を
呼んでもらうことにより再確認できたと思っていた彼女にとって
所詮「身替わりにすぎない」と言われた時、恋愛を抜きにしても
とても辛く、なにかが壊れる思いをしたであろうことは容易に想像できる。
この逃げていた指輪の真実と、
はじめて誰かに存在を認めてくれたと思っていた
他者に対する自己の存在意義の崩壊に直面し、
傷付き悩み、もう彼の前でいつものように振る舞えない、
明日からは彼への思いは断ち切ろう、そう決心する詮子。
彼は強引に、とある場所へ詮子を連れてゆくのだが…。

作品全体を通して、キラキラとした木漏れ日のような
爽やかな空気で満たされた印象を受けるのは
田渕由美子さんの軽やかなペンタッチに乗って
初めての「本物の恋」に戸惑い、悩み、ルームメイトに励まされながらも
勇気を出して、初めの一歩を踏む少女達の
どこかリアルで、どこかメルヘンな世界が
曇ることなく3部作を貫いているからであろう。

それにしても、屋外のシーンの木立、茂みなどの葉っぱの数の多いこと!
これは少女の心のざわめきや、男の子とのデートの楽しさなど
彼女達の心理状態も表す時もあり、
また葉っぱ自身が優しく応援したり、慰めているようにも見える。
注意して観察すると、このリズムさえ感じる葉っぱ達に、
作品の心的表現が見てとれ、なかなか面白い発見があると思う。



 
田渕さんをはじめ、当時の少女漫画に多いのが、
 気になる男の子などが突然、茂みなどから「ガサッ」という擬音とともに
 主人公の前に姿を現すシーン。(ありえな〜〜い!)
 あの時代のご都合主義というか、与えられた頁に収める合理主義というか
 まぁ、それが黙認される、おおらかな時代だったのだろう。

私はリアルタイム組ではないが、一世を風靡したこの時代の
りぼん「乙女ちっく路線」の作家のなかでもダントツに
『フランス窓便り』をはじめとする田渕由美子さんの作品が大好きだ。
普通の何気ないラブストーリーだが、ぐんぐんと引き込まれてしまうのは
じっと「待ち」の姿勢で王子様を獲得する
ステレオタイプの実体の無い過去の
(現代も存在するが)ヒロイン像とちがい
自己反省したり、勇気を出して一歩踏み出そうとする所や、
たまに登場する「ツンデレ系」の気の強そうな少女の姿、
真似したくなるようなファッションの可愛らしさ、
何にもまして田渕由美子さんの独特の清潔感のある
優しいペンタッチによるものが大きい。
(田渕さんの作品は中学時代の美術講師に教えてもらった)
私はマニアなので『フランス窓便り』は
りぼんマスコットコミックスや
愛蔵版、文庫版、作品集など4册所持している。
『フランス窓便り』以外にも大好きな作品がいくつかあるが
それは又、時間をかけてここで語ってみたいと思う。
時代は違えども恋する少女は、
いつも前向きで、輝いている。



蔵書リスト

『トーマの心臓』 萩尾望都 1974年 小学館
『フランス窓便り』 田渕由美子 1976年 集英社
『空の色ににている』 内田善美 1981年 集英社
『いちご物語』 大島弓子 1975年 朝日ソノラマ
『キャンディ・キャンディ』 水木杏子原作、いがらしゆみこ画 1975年 講談社
『エマ』(現代) 森薫 2002年 エンターブレイン

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